俺と、甘いキスを。


金曜日。

夜明け前の、薄暗い朝。
雨戸の一枚をそっと開け、凛とした冷たく澄んだ空気を肺一杯に吸い込む。

今日は決めたことが二つある。
昨日の兄貴からの動画で、確かめることができた。今まで疑問に思っていたことだった。それが「もしかしたら真実」という可能性が脳内に生まれたからだ。

全ては、花を不安にさせないため。

もう二度と、失敗しないため。


「おはようございます、右京さん」
「おはよう、花」

こんな優しく微笑み合える日々を送れるように。

「花、今日は用事があって研究所に行くんだ。花、仕事が終わったら……看病してくれたお礼を兼ねて、食事に行かないか」
「食事、ですか」

そして、他の男のものになる前の彼女に、俺の十年分の想いを捧げるために。




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