俺と、甘いキスを。

右京蒼士は、私の両肩に手を置く。
「それでも、お前と不倫という関係を作る俺は、悪人だ。お前の家族から非難や怒りを買っても、俺はお前を離してやることができない」

大切だから、傷つけたくない。けれど、狂おしいほどに、お前が欲しい。

互いの今の立場が恨めしい。
心臓が痛いくらいの、同じ思い。

「私も、同じです」
同時に、ふわりと体が抱きしめられる。
「本当に、後悔はしないか」
「右京さんは、私を守ってくれると言いました」
「嘘は、言わない」

鼻を掠めるくらい、近づいた顔。もう何度もキスをしているのに、苦しいくらいドキドキが止まらない。

右京蒼士の切れ長の目が、私を捕らえる。
「今日、お前を抱くことに理由がある」
「……え」
吸い込まれそうな漆黒の瞳から、視線が逸らせない。

「花を愛するのはもちろんだ。他の男のものになるための見合いをする前に、川畑花という人間に「俺」という存在を残すためだ」
「右京さん、という存在?」

首を傾げる私を、彼はゆっくりとベッドに寝かせた。
「俺は最強に欲深い人間らしい。自分は結婚しているクセに、花がお見合いしようとするだけでムカついて手放さないようにしようとする。だから、俺は自分が納得するまで花を愛して、その体に俺を刻みつけたい」
少しも笑えない、その言葉。背中がぞくりと震えた。
「私は、右京さんから離れません」
「俺が……不安なんだ。一緒に住んでいた数日間、病人だったというのにお前が欲しくて仕方なかった」
整った綺麗な顔の右京さんが、泣きそうな顔でおねだりをする子供のように可愛く見えてしまう。

私も、なかり重症だ。

そして私も彼同様に地獄に堕ちた、悪人だ。

< 165 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop