俺と、甘いキスを。

柔らかなアイボリー色のテーブルクロスの上に、銀色に輝くフォークやナイフが並ぶ。ワイングラスもピカピカに磨かれて、さすが高級レストランだ。
母は頬をピンク色に染めて窓の外を眺め、
「見晴らしがいいわね」
と、笑みを浮かべた。
父はずっと固い表情のままだ。その視線はテーブルクロスの一点を見つめている。
私の隣に座る兄が、
「今日のお見合いのこと、アイツは知っているのか」
と聞いてきた。
「アイツ」とは、おそらく右京蒼士のことだろう。あの一件以来、兄とスマホのメッセージアプリの交換をして、時々メールのやり取りをしている。少しずつ本来の兄妹の形を取り戻そうとできるのは、右京兄弟のおかげだと思う。
私は「うん」と言って頷く。兄は「そうか」と答えただけだが、その手にはスマホがあり何かを見ていた。

柴本貴臣とのお見合い。
きっと両親に対して好印象を与えている彼だから、お見合いもトントン拍子に進んで、この場で結婚の時期まで決まってしまうかもしれない。
柴本貴臣とは先日の研究所で会ったきりだが、どうにも社交的な感じばかりで、彼の本性が見えなかったのだ。

──柴本貴臣は、本当に私と結婚する気があるのだろうか。

本当なら、相手から断ってくれたら私は独身のまま、しばらく右京蒼士と関係が続くことになるだろう。自分の両親の落ち込む姿は、見たくない気持ちもある。

──私は、どうすれば。

鮮やかに描かれた桜の花の上に置いた、自分の手をグッと握りしめる。
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