俺と、甘いキスを。
柴本貴臣さんとお見合いして、結婚する。
だから、この嬉しくて恥ずかしいドキドキの一夜は、大切な思い出として嫁ぐときに持っていこうと思った。
「花、落ちる」
「…え?ひゃっ!」
突然グイッと肩を掴まれたかと思うと、ぐるんと向きを変えられた。腹部に腕の感覚があると思えば、腰に腕が回り一気に引き寄せられた。
首の下に差し込まれた腕と抱きしめられた背中の腕。そして私の顔面には、右京蒼士の胸がピッタリとくっついている。
「う、うきょ…」
と、声を出そうとした。
トクン、トクン、トクン。
彼の脈打つ心臓の音が聞こえる。
速い。
私は彼の腕の中でモゾモゾと動いて、彼を見上げた。電気を消しているので、顔がよくわからない。
「花、一緒にいるとあったかいだろ?」
右京蒼士は背中に回した腕の力を抜いた。心臓の速さも落ち着いている。
微かな寝息が聞こえる。
本当に好きな人の腕の中で眠るって、こんなに幸せなことなんだ。
右京蒼士のぬくもりに包まれて、
暗くて見えないけど、きっとすぐそばに彼の顔があって。
穏やかな寝息を聞いて安心して、
耳心地のいい心音を聞いて生きている幸せを感じる。
「…っ」
家族と一緒にいる幸福感とは違う、大切な人とこうやって過ごす幸せを。
今、知ってしまうなんて。
こんなに甘い胸の苦しみが嬉しいと悲鳴を上げる気持ちは、今まで感じたことがなかった。
愛する人に抱きしめてもらうことが、幸せで、切なくて、尊い。
もう、二度と味わうことのない、本気の幸せ。
一生添えることのない貴方を好きになったのは、やはり間違いだった。
私は右京蒼士の胸に抱かれながら、静かに泣いた。