シンフォニー ~樹

「絵里加、すごくモテたけれど、ずっと臆病で。恋愛とかに 消極的だったから。絵里加が恋愛に興味を持つまで、待っていました。」

健吾は、樹にそう言った。


その言葉で樹は、健吾を許してしまった。

健吾の中に、自分を見たから。
 


樹は、絵里加を 見守ることはできても、与えることはできない。

二人で生きていくことは、許されないから。


樹が 絵里加を思っていると知ったら、絵里加は苦しむから。

こんなに澄んだ 絵里加の人生を 曇らせたくない。

絵里加にとって樹は、従兄妹だから。
 


ずっと絵里加を思い続けて、絵里加が大人になるまで 待っていた健吾。

樹と同じ様に。

健吾なら、絵里加を 幸せにできると思った。



絵里加も 健吾を求めていたから。

甘く潤んだ瞳で、健吾を見つめる絵里加。


どんなに思っても、どんなに待っても、その瞳を 樹に向けられることはない。
 


明るく真っ直ぐな思いで 絵里加を見つめる健吾。



家族みんなが、絵里加を託すなら 健吾しかいないと思う。

健吾は 絵里加の曇りのない人生を、より輝かせる相手だと認める。



絵里加の足元の石を、一つ残らず取り除くように。

家族みんなで 健吾と絵里加の将来を 整えはじめる。
 
 


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