シンフォニー ~樹
32

それから 数日の慌ただしさは 悲しみを 忘れさせる為に あるのかもしれない。


大企業の会長だから。

急で 何も準備していなかったから。

それでも 会社のOBが動いてくれて お祖父様に相応しい 荘厳で温かい葬儀ができた。



お祖父様のお骨を 父が抱いて みんなで 家に戻る。

まだ実感がなくて。

この何日かは 夢で しばらくすると お祖父様が 帰ってくるようで。


みんなが 静かに お祖父様の遺影を眺める。

どうすれば この現実を 受け入れられるのかを 試行錯誤しながら。
 


リビングに作った祭壇は、たくさんの 花に囲まれていた。

父はそこに そっとお骨を置いて 小さなため息をついた。


あまりにも悲しくて。

お祖父様の 喪失感は大きくて。

いつかは 別れが来ると 思っていたけれど とても急だったから。
 


ソファに 腰を下ろす家族。

いつもお祖父様が座っていた 一人掛けのソファには 誰も座らない。



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