シンフォニー ~樹
一泊した健吾が 帰った後、軽井沢では 絵里加と健吾の話しが続く。


「いい子でよかったよ。大切な姫を 傷つけるような相手なら、許せないからね。」

お祖父様の言葉に、家族みんなが頷く。

「絵里ちゃんを大好きなのが、見ているだけで 伝わってくるわ。」お祖母様が言う。
 
「間宮化学の社長、大学の1年先輩だよ。大らかだけど、目の利くできた人だよ。」

父は 健吾の父親を知っていた。
 
「ケンケンのお母様も、穏やかな良い方ですよ。小学生の頃、何度か お会いしました。」

絵里加の母親、麻有ちゃんが言う。
 


「まだ二人学生だから。この先どうなるかは、わからないけどね。」

智くんの言葉に、

「でも 良いご縁なら、約束だけでも した方がいいんじゃない。絵里ちゃんを 遊ばれてもいやだわ。」

樹の母は、絵里加を 娘のように可愛がっている。
 

「本人達次第だよね。絵里加が 飽きちゃうかもしれないし。」

智くんが言うと、みんなが 否定の声を上げる。
 

「絵里ちゃんは、そういう子じゃないわ。純粋で一途よ。傷つけたくないわ。」

母は、麻有ちゃんよりも先に 力説する。
 

「ケンケンも、かなり本気だよ。俺に会社のこと、色々聞いてきたよ。」樹は言う。

絵里加を 手に入れることは できないけれど。

何人もの男達には渡したくない。
 

「まずは 大学を卒業してからだよ。二人共 世間知らずだから。でも今、付き合う相手としては、良い子で良かったよ。」


智くんはきっと 具体的なことを 考えたくないのだろう。
 

「世間知らずのうちに、一緒にさせた方が いいんじゃない。生活の援助は できるんだから。擦れてしまう前に。」

お祖母様が言う。みんな内心、そう思っていた。
 
「ケンケンの家の意向もあるからね。」

智くんは、冷静に言う。みんなが静かに頷く。
 


絵里加を 手放したくない気持ちは、みんな同じ。

でも、いずれ手放すのだから。

それなら健吾がいい。

それも、みんなの気持ち。
 


樹は、そっと諦める決心をする。

誰にも知られないうちに。


絵里加の幸せが、樹の願いだから。


絵里加の笑顔が輝くのなら 健吾と仲良くして 健吾を助けよう。



悲しい決心をする。




いつか絵里加以上に、愛せる人と出会えることを信じて。




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