シンフォニー ~樹
48

数日後、樹の家の 解体が終わった という連絡があり 見に行ってみる。

父と母、智くんと麻有ちゃん、樹と恭子、そしてお祖母様。


何もなくなった 家の跡地。

7人は黙って佇む。


それぞれが、それぞれの思いで。
 

「こうして見ると、随分広いね。」

沈黙を破ったのは樹。

夕日に染まる更地を 一列になって 見ていることが 切なくて。
 

「そうだね。今度の家を建てても 十分な庭ができるよ。」

父は 前向きな答え方をした。
 

「何か、ここにあった前の家が 想像できないわ。」

母の言葉は 樹が思っていたことと 同じだった。
 
「うん、わかる。前の家は 覚えているんだけど。この土地と 結びつかないよね。」

樹よりも先に、母に 共感したのは 智くん。
 

「家は、あくまで箱だから。中に 家族が住んで 完成するの。」

お祖母様の言葉は、みんなの心に重く響く。
 

「ここに 住み始めたの、俺が 幼稚園の時だよね。20年以上 住んでいたんだね。」

樹が言うと、
 
「あの家を建てたのは 智之が 生まれた時だから。もう50年以上経っていたのよ。」

お祖母様の言葉に、みんなが驚く。
 

「その割に、傷んでなかったね。」

自分が生まれた時 と言われた智くんは、感慨深気に言う。
 
「俺達が 引っ越してくるとき、だいぶ 手直ししたからね。」父も頷く。
 
「あれから 20年以上だもの。頑張ってくれていたわ。」

母の言葉は しんみりして、みんなが 何となく俯く。
 


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