シンフォニー ~樹
「家がなくても 家で作った思い出は ずっと残るからね。大丈夫だよ。」

お祖母様は いつも前向きで 若い樹も驚くほどだった。


「今度は 新しい家で、また 色々な思い出が できていくのね。」

お祖母様は そこで言葉を切って 懐かしそうな目をする。
 

「この土地は、お祖父ちゃんの親が 会社で成功して 住み始めた場所なのよ。廣澤工業のスタート。代々、ここに住めるって すごいことだと思うわ。」
 
「そうだね。土地があるから 家を建てられるんだよね。」

父は、お祖母様を見て頷く。
 
「それもそうだけど、紀之達が ちゃんと 土地を守ってくれるから。もっと立派な 家を建てて住めるんだよ。」

お祖母様の言葉に みんな 胸が熱くなって 言葉がでない。
 

「仕事に失敗すれば ここを 手放すことになるからね。だから、ここに 新しい家が建つことが とても嬉しいの。」

お祖母様は 父と智くんの顔を見て言う。
 


「樹、名前の通りに お前も ここに根差してくれよな。」

急に振られて、樹が戸惑うと、
 
「樹の名前を付けたのは お祖父ちゃんだから。初孫で喜んで、お祖父ちゃんは 一生懸命、名前を考えたの。」

お祖母様は、優しく 樹を見て言う。
 

「樹には 地に足を付けて 樹を 太く育ててほしいって。翔は 自由に空を翔けて 新しい可能性を 開いてほしいって。名前の通りになったね。」

お祖母様の言葉に、恭子は 顔を覆って涙を流す。

樹も そっと目頭を 押さえた。
 


「前にも言ったけど だから お祖父ちゃんは 幸せに亡くなったんだよ。」

まだ背筋もまっすぐで 老いを感じさせない お祖母様。

でも並んで立つと 随分小さく感じる。


それだけ自分が大きくなったから。


しっかりと 気丈に振舞うお祖母様の肩に 父がそっと手を置いた。
 


「俺 絶対にできると思う。多分 お祖父様やお父さんを 超えられる。」


樹は空を見て言う。


隣で恭子が小さく頷いてくれた。
 



「頼んだぞ、4代目。」

智くんは、心地よい笑い声で 言ってくれる。
 
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