シンフォニー ~樹

バレエ公演には、健吾の家族も来ていて みんなで食事をして帰ってきた。
 

「良かったわよ、絵里ちゃん。本当に綺麗で。」

帰ってきたお祖母様が言う。
 
「それに ケンケンのご両親も、とても良い方ね。ほっとしたわ。」

母が言うと、
 

「あちらも 同じ気持ちで良かったよ。」

父の言葉に、樹は問いかける顔をする。
 


「卒業したら、絵里ちゃんを 嫁にほしいって。ケンケンより先に、お父様に プロポーズされたの。」

母は、安心した顔で言う。
 


「へえ。まあ、姫なら当然だよね。家柄も顔も性格も、申し分ないじゃない。」

珍しく翔が口をはさむ。

樹は、驚いて翔を見る。



翔の目に、同じ切なさを感じた。

『俺達兄弟、完敗だな』


樹の視線に、翔は無言で頷く。


久しぶりに いたずらを共有したような 温かい空気が 二人に流れる。
 

「姫みたいなネンネは 世間に汚されないうちに お嫁に行った方がいいんだよ。」

樹も朗らかに言う。
 

「樹もそう思う?」

お祖母様に言われて、
 

「まあね。ケンケンなら 大丈夫だと思うけど。姫を 傷つけるようなことがあれば、俺達が黙っていないから。」

樹は翔と頷き合って言う。



二人を見つめて
 
「頼もしいなあ。」

と笑うお祖父様の目に、切ない温かさを感じた。

穏やかに頷く樹は、


『俺達は大丈夫。諦められるから』

と、お祖父様に目で語った。
 
 


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