シンフォニー ~樹

「ねえ、お兄さん。ちょっとお茶して帰ろうよ。」

とスタバの前で言われて

「もう遅いよ。お母さん、心配するよ。」

樹は 大人の分別を 捨てられない。

「大丈夫。舞浜駅 混んでいるから、10時になるって 連絡したから。」

笑顔で言う 恭子の頭を こら、と小突いてしまう。


恭子に 30分の猶予をもらった樹。

でも、まだ何も言えないけれど。
 


「これ、お土産。チョコクランチは、絵里ちゃんの家で渡すね。」

そう言って差し出した 小さな包み。
 
「ありがとう。開けてもいい?」

樹が聞くと、恭子は 笑顔で頷く。


それは、ミッキーの小さなピンバッジ。

樹は胸がキュンとしてしまう。

こんな可愛いお土産、女子高生じゃないと 買えない。
 

「ありがとう。可愛いね。でもスーツに付けたら、絶対にばれるね。」

隠せない思いが溢れて 恭子を見つめる。

照れた顔で、でも満足気に微笑む少女。
 

「そうだ。」と言って、樹は 財布の内側に ピンを打つ。

エルメスの 高価なお財布なのに。躊躇せずに。

はっとして見ていた恭子が 頬を染めて 樹を見る。

樹も笑顔を返す。
 


「早く、高校卒業してね。」突然の言葉。

でも樹が 今言える、精一杯の告白。

恭子は、少し瞳を潤ませて頷いた。
 


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