シンフォニー ~樹

「あれ。樹、元気ないね。失恋でもしたのか?」

母から聞いた翌朝、会社で 樹を一目見た智くんが笑う。
 
「図星です。姫に失恋しました。」

樹は、冗談っぽく言う。


智くんには、見抜かれている気がして。
 
「ああ。俺も失恋だよ。寂しくてね。」

樹の気持ちを否定しない智くん。

共感することで 本音を吐き出す 機会を作ってくれる。
 

「寂しいです。大切なおもちゃを 壊された気分ですよ。」

半分は本音。でも本当は、もっと複雑な気持ちだった。
 
「それが、相手の子が良い子でね。絵里加の人を見る目が、俺は誇らしくもあるよ。」

智くんのように、受け入れることができるのか 樹には自信がない。
 

「小学校の同級生だって?」

自分以上に、絵里加を大切にできるのか。

相手の胸を掴んで問い質したい。
 

「間宮化学の息子さんだよ。翔のことは良く知っていたよ。家が南平台だから。バスが一緒だったみたいだね。」

智くんは、ちゃんと話してくれる。
 

「へえ。それなら姫を 傷つけるようなことは、無いかな。」

身元も、樹の諦める材料になる。

樹が納得できる相手であってほしい。


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