シンフォニー ~樹
16

樹の 言いつけを守って 恭子は 知らないふりを ちゃんと演じる。

樹が いくら本気でも まだみんなには 言えなかったから。
 

ゆっくりしたデートは できないけれど 週末は会って食事をし 少し街を歩く。

夜はLINEで 一日の報告をし合い 会えない寂しさを埋める。


恭子は 色々な写真を送って 樹を和ませてくれる。
 


両方の家族で 食事をする時は 以前のように “お兄さん” と呼び 不自然にならない程度に 懐いてくる恭子。


見事過ぎて 樹は苦笑してしまう。


絵里加の家で会う時も 恭子は無邪気に話しかけきて 樹の方が 狼狽えてしまうほどだった。
 


「樹さん、恭子って 呼びそうになったでしょう。もう。気をつけてね。」

絵里加の家からの 帰り道 恭子に叱られる。


大学の推薦が確定した晩秋。
 
「ごめん、ごめん。お詫びに、ディズニーランド行こう。」

わがままも言わずに 明るく耐えてくれる恭子に ご褒美。


繋いだ手を揺らして 樹が言うと、
 
「やったー。バンザーイ。」

恭子は、繋いだ手を 高く持ち上げる。

ケラケラ笑う樹に、
 

「ねえ、いつ行く?明後日は?」

と問いかけながら。
 
「明後日か。せっかちだな。」

恭子に 振り回されることが嬉しくて。

恭子の 無邪気な笑顔が 嬉しくて。

樹も笑顔で言う。
 


「多分 日曜日は みんなと食事するでしょう。だから、土曜日に行こうよ。」

恭子も明るく答える。
 
「いいよ。土曜日ね。恭子 案内してよ。俺、10年振り以上だから。」
 
「任せて。おすすめのルートも 考えておくからね。」

無邪気な明るさが 愛おしくて。

手を繋ぐだけの 二人でも 樹は 一緒にいるだけで 満足だった。
 


「恭子、今のままでも 大丈夫?大学決まったから もう言ってもいいよ。」

そうすれば もっと会えるし。

嘘をつかないで出かけられる。
 

「うちの親は、樹さんなら大丈夫だと思うよ。でも 樹さん 責められない?相手は 子供だろうって。」

恭子の言葉に笑いながら、
 
「18才は大人でしょう。そろそろ 恭子のご両親に 挨拶したいよ 俺。」

隠れた交際よりも 嬉しいに決まっている。

恭子は、照れた笑顔を 見せて言う。
 
「冷やかされるよ、多分。みんなに。それが恥ずかしいかな。」

はにかんだ天使は、可愛くて、優しい。



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