松菱くんのご執心
 そんな風に誘われている人達を横目に、人混みを通り抜けていく。



「松菱くーん」



 沈んだ路地へと声を飛ばす。


返事はない。


次の路地へ進む。



どこからか、着信音が耳に届いた。


首を振って、わたしは誘われるように音のする方を辿る。




「これは……」




 道路脇に松菱くんのスマホが落ちていた。


何かあったに違いない。着信は鳴り止むことなく轟きつづける。



 わたしは応答ボタンを押し、耳へあてた。



「あ、やっと繋がったよ。松菱殿ー。
白羽根さんとても心配していたよ? 大丈夫かい?」


 とても嬉しそうに声を弾ませる岡野。

それとは対照的に、わたしは申し訳なさと沈んだ気持ちで一杯だった。


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