松菱くんのご執心
「繁華街ですか」



繁華街となると、隣町になる。あそこしかないだろう。

ゆっくり歩みを進めるうちに、松菱くんの家はもう見えない所まできていた。

隣町まではここから、約20分もあれば余裕で着くはずだ。



「あ、みかさちゃんは行くなよ」



三木さんはどこか、この状況を楽しんでいるようでもあった。


わたしの行動を読まれている気がして、ドクッと心臓が波打った。


それと同時に、電話の向こうからもガタンと音がした。


「そこにみかさが居るのか!?」


その声は爽の声に似ている。まさか、爽と三木さんが一緒にいるわけないだろう。


「ちょっと、落ち着けって」


三木さんは、何やら電話の向こうでやり取りした後にわたしに釘を刺した。



「とにかく、繁華街には行くなよ? なんか、もう手遅れな気がするけど……」



 もしかして見られてるのではないかと辺りを見渡したが静かな住宅地には、



当たり前だが三木さんはいなかった。



「俺も心当たりを探してくるけど、何度もうるさい様だが来ちゃ駄目だぞ。………これは振りとかじゃねえからな」



 わたしは「ああ」とか「はあ」とか、曖昧に返事していたと思う。


いつの間にか電話を切って、もう足は繁華街へ向いていた。


松菱くんの無事を確認するために。というよりも、心配だった。


彼がどこかへ行ってしまって、そのまま帰ってこない予感があったから、落ち着けなかった。




日も暮れ始めた。



初めての繁華街は、

辺りは静まり返っているのに反し、そこだけは夜のネオンが揺らめいて、


「こっちへおいで」と妖しく誘う。



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