松菱くんのご執心


「誰だ、彼女か? 彼女だったのか?」


奥から、もう一人男の人が表に顔を出した。



わたしと目が合うと、この子か、ほうほうなるほどなと頷いて、



「秀一も案外見る目あるじゃねえか、なあ? 戸黒」と爽やか青年を見る。



戸黒さんというらしい。



「やめてください、失礼ですよ。初対面の方に………もう奥に引っ込んでてください」



戸黒さんは顔をしかめる。


そしてわたしに向き直って、


「すみません、変な人で」と苦笑いした。



「いえいえ」と言いながら、わたしは考える。この人たちは松菱くんと一体どういう関係なんだろう。



松菱くんの家族?



にしては随分よそよそしい感じがする。




「秀一はちょっと風邪ひいて寝込んでるんですよ、だいぶ良くなったんですけどね」


「ああ、そうですか」



喧嘩に明け暮れてると想像したのは大ハズレだったみたいだ。


松菱くんと風邪の組み合わせは中々ミスマッチで、当たり前だけれど松菱くんも風邪を引くんだなとぼんやり考えた。



「それなら、ゆっくり休んだ方がいいですね。お大事にとお伝えください」



小さい疑問をいくつか持ちながらも、わたしは小さくお辞儀をして、帰ろうとした。



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