松菱くんのご執心
そういえば、あの時もそうだった。


松菱くんが風邪で休んだ日、真っ先にお見舞いに行くように仕向けたのは担任だった。
絶対に急ぎじゃないプリントをわたしに持たせて、


ちょっと強引だったけど、心配の表れか、無理やりにでもお見舞いに行って欲しかったのだろう。



 いやあナイスだよ、ファインプレーだよ先生。



「それで、どうだった? テストの方は」

松菱くんが聞いた。


岡野は姿勢を正して座り直す。
口を真一文字につむりモジモジする姿に、これはダメだったのか、と不安になった。



「……よくぞ聞いてくれたあっ!」


岡野が声を高くする。


「ほんっとにありがとう松菱殿。
僕はこれほどまでに問題をスイスイ解けたのは初めてだ」



立ち上がり熱弁する。



 あまりに激しいジェスチャーで、眼鏡が飛び跳ねている。

わたし達一同は、上京したての田舎者のように、背の高い大きいビルを───もとい岡野を眺めた。



< 67 / 148 >

この作品をシェア

pagetop