未明の三日月

「豊洲か。高層マンション?家賃、高いのかな?」

タブレットを操作する、美咲の手元を 佳宏が覗き込む。
 
「結婚すると 住宅手当 増えるから。今の二人分の家賃より増えても 大丈夫だよ。」
 

大手企業は 福利厚生が充実している。

仕事を続ける美咲が 妊娠しても、産休や育休がとれるから。

だから美咲は 仕事を続けられる。

美咲が仕事を続けることで、豊かな生活が維持できる。
 


「あっ、美咲。これは?駅も近いし、緑もいっぱいだよ。眺めも良さそうだし。一緒に散歩もできるね。」

明るく言う佳宏。
 
「うん。広さもちょうどいいね。」

美咲も笑顔で答える。
 

「住んでみて 落ち着いたら、分譲も考えようね。」

優しく言う佳宏に、
 

「何か、夢みたい。」

美咲がフッと言うと、
 


「俺も。美咲と こういう所に住むの、夢だったから。」

と佳宏も 照れた顔をした。
 

「ありがとう。私を選んでくれて。」

佳宏への 愛と感謝が溢れて、美咲は少し涙汲む。
 

「俺も。」


佳宏も小さく答えた。


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