未明の三日月


明けきっていない空は 少し青みが濃い。

下の方に オレンジ色の太陽が 輝く。
 


「わぁ綺麗。三日月だ。」

空の上に残る 三日月は 半透明な乳白色。
 


「綺麗だろう。美咲みたいだ。中々 気付かれないけど 一度見てしまうと 目が離せなくなるんだ。」


佳宏の言葉は、美咲への深い愛が 溢れていた。

美咲は 月を見ながら、胸が熱く震えてくる。
 


「だんだん、薄くなっていくね。」

透明感が高まって、空に溶け込んでいく月。
 

「俺の中に 溶けていったんだよ。」

佳宏は両腕で 美咲を強く抱きしめる。
 
「佳宏は空?」

美咲も呟く。


頷く佳宏の唇が 美咲の髪から 横顔に触れる。
 


「何か、すごく幸せ。今。」

美咲は そっと振り返って、佳宏の唇を求めた。


美咲を すっぽり抱いた佳宏が 美咲の唇を塞ぐ。

目を閉じた美咲は 空に溶ける月のように 佳宏に溶けていく自分を感じる。
 


熱い衝動に 美咲を抱き上げた佳宏と そのまま一つになった時 美咲は 今まで感じたことのない 驚くほど 神聖な歓びに包まれていた。
 

「私、溶けていく。」

途切れがちに呟く 美咲の声は 佳宏を突き抜けて 甘く果てさせる。
 


「ねえ、今の何?」

ぐったりと 佳宏に抱かれたまま、美咲が言う。
 


「すごかったね、美咲。癖になりそう。」


と佳宏は恥ずかしそうに微笑んだ。
 



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