未明の三日月

「ずっと前に、俺が 谷本課長に怒られていた時のこと、美咲 覚えている?」

美咲が入社した時の課長は、いつも不機嫌で 理不尽に 部下を怒っていた。

大人しい佳宏は 谷本課長の標的のように よく怒られていた。
 


「嫌な性格だったよね、谷本課長って。異動になったとき やったー、って思ったよ。」

2年目には 異動になった課長の存在を、美咲は忘れていた。
 

「美咲、"何で言い返さないんですか。完全な八つ当たりなのに。"って 言ってくれたことあるんだよ。」

美咲は 全く 覚えていなかった。
 

「うわぁ。私、生意気。まだ新入社員だったのに。」

美咲は自分が恥ずかしくなる。



「俺、すごく嬉しかったんだ、あの時。美咲 俺のことなのに 本気で怒ってくれて。わかる人はわかってくれるって思えて。」

佳宏は 照れた顔で言う。

美咲は黙って頷く。
 


「あれからかな。美咲のこと、気になって見るようになったの。」

美咲は 無意識だった。

でも 佳宏の心に届いていた。

美咲は 胸が熱くなって、佳宏を見つめる。
 


「美咲さ、正直で ズケズケ言うんだけど 言葉に棘がなくて。こんな風に 自分を伝えられるって すごいと思ったよ。」

美咲は 何も言えないまま、食事の手を 止めてしまう。
 
「こういう子と 一緒に生きていけたら、幸せだろうなって ずっと思っていたんだ。」


さっき美咲の ウエディングドレス姿をみた佳宏は、少し饒舌になっていた。

美咲は 胸が高鳴って 涙が滲んでしまう。
 


「ありがとう。」

やっとポツリと言う美咲。
 
「だからね、ずっと美咲だけだよ。」


佳宏の言葉に、美咲は 涙を堪えて俯く。

小さく頷きながら。
 


「これからが長いからさ。美咲、ずっとよろしくね。」

佳宏は優しく言う。
 
「こちらこそ。」

そう言った美咲の目から、涙がこぼれ落ちる。
 



「可愛いな。これ以上、泣くなよ。ここでは。」

佳宏の言葉に、美咲は 甘く佳宏を睨む。
 


「意地悪。佳宏が泣かしたくせに。」

そっと言う美咲を、佳宏は 愛おし気に見つめ続けてくれた。
 










              〜end
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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