愛溺〜番外編集〜



「あっ、寛太…!」

体育祭の練習に参加していた寛太が、私の元に駆け寄ってきたのだ。


「実行委員、集合みたいです」
「あ、もうそんな時間か。ほら涼介も行くよ!」


私たち体育祭実行委員は、放課後の練習準備や片付けの責任を負う。

そろそろ練習時間が終わりに近づいているため、実行委員として動かないといけないのだ。


「……うん」

険悪な空気を引き裂くようにして、私は涼介の腕を引っ張った。


「愛佳先輩、リレーに出るんですね」
「そうだよ。寛太は?」

「俺もリレー出ますよ!」
「寛太、足速いもんね」

「愛佳先輩も速いじゃないですか!」


女と男の“速い”は違う。
けれど寛太に言われると、少しだけ自信に繋がる気がした。


「うん、一年に負けてられないなぁ」
「俺たちも先輩に勝つ気満々ですよ!」

「そんなこと言われたら余計に負けられないね」
「こっちこそです!」


中学の時は互いに味方同士だったというのに、いくら体育祭とはいえ、敵同士であることが不思議である。

それは寛太も思っていたようで、互いに笑みを溢した。


するとその時、涼介がさりげなく私の腰に手をまわしてきた。

あまりに突然のことで驚いてしまう。


「涼介…?」
「どうしたの?」


本人は至って普通だった。
まるで無意識にやっているかのようで。

堂々と触れ合っているわけではないし、隣には寛太もいるため気にしないでおく。

< 22 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop