愛溺〜番外編集〜



「どうしたの、愛佳。
何か怖い夢でも見た?」


なるべく優しい声で話しかけると、彼女は泣きながらも素直に頷いた。


「お父さんと、お母さんが…また死んじゃう夢。
目が覚めたら涼介がいなくて…」

「……それで怖かったんだね」


タイミングが悪かったようだ。
そのような夢を見た後で、俺がいなかったがために心細かったのだろう。


「大丈夫だよ、俺はいなくならない」
「……うん」

「だから泣かないで?そうだな、愛佳が大人しく薬を飲んでくれたら、俺も一緒に寝よう」

「ほ、本当…?」


俺の言葉に食いついてきた愛佳。
今の調子で話を進める。


「もちろんだよ。
じゃあまずは薬を飲んでくれる?」

「飲む…」
「すぐ戻ってくるから待ってて」


ようやく俺から離れ、大人しくベッドで待ってくれた愛佳。

俺が戻ってきた途端、彼女は嬉しそうに頬を緩めるものだから心臓に悪い。


彼女はすぐに薬を飲んだかと思うと、俺もベッドに入るよう促してくる。

今の彼女に恥じらいという言葉などなかった。


一度心を落ち着かせてから俺もベッドに入る。
けれどその心は愛佳によって見事に崩された。


「涼介…!」

すぐさま愛佳は俺に抱きついてきたのだ。
ここまで甘えてくる彼女を俺は知らない。


かわいい、本当に今すぐ手を出したい。
甘くかわいい声で鳴く愛佳を、とことん鳴かせてやりたい。

けれど相手は病人だ、我慢せざるを得ない。


愛佳は疲れが溜まっていたのだろうか。
案外早く眠りについた。

俺に抱きついて数分も経たないうちに、寝息を立て始めたのだ。


「ん…」


頬に赤みを帯びている彼女は、まるで小さな子供のようだ。

いつものように気高く、そして綺麗な彼女とはギャップがあった。


それもまた良い。
なんて、彼女はとことん俺を夢中にさせる。


思わず手を伸ばし、頬を撫でる。
やっぱり熱い。

次に目が覚めても熱が下がっていなければ、病院に連れて行こう。


そこまでは大丈夫だと言い張っているけれど、無理はして欲しくない。


スヤスヤと眠る愛おしい彼女を抱きしめる。
そして理性を保つために、俺もそっと目を閉じた。

< 6 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop