愛溺〜番外編集〜
彼の母親も初めてその話を聞いた時は驚いていたけれど、同時に嬉しくて泣いていた。
今では週に一度だけ、私の家に泊まりに来る涼介。
それがなかったら、私は寂しさに押し潰されていたかもしれない。
「愛佳先輩!」
家を出て、自転車を漕ぐこと10分。
信号待ちの交差点で、誰かが私の名前を呼んだ。
「あっ、寛太!
おはよう」
その相手とは、今年新一年生として入学してきた男子生徒の樋口寛太だった。
彼は私を見つけるなり、すぐさま自転車を走らせて隣にやってきた。
ふたり並んで信号を待つ。
寛太は中学時代の部活の後輩だった。
半年ほどしか一緒に練習できなかったけれど、よく懐かれたものだ。
まさか同じ高校だとは互いに思っておらず、初めて学校で会った時は驚いた。
というより、あまりにも寛太が変わり過ぎて、私はすぐには気付けなかった。
「本当に成長したね、寛太」
「そうですよ!あの頃は身長だって愛佳先輩に負けてましたから…」
随分と男らしくなったものだ。
あの頃はまだ声変わりもしておらず、弟キャラだった彼。
今では学年のイケメンとして名が上がっているらしい。これは沙彩の情報だけれど。