恋泥棒の犯行予告
「ヤバいね、これ」
「ヤバすぎる。本気の受験勉強は先延ばしか……」
「ちょっと9月が終わるまでは無理っぽいね」
「せっかく決意したのによー。あーあ、やる気なくなっちゃった」
ロングホームルームは気楽な空気の中行われるもので、席も好きなところに座っていいことになっている。騒ぐもよし、勉強するもよし。私たちに与えられた息抜きのような時間だ。
そんなときにこんな地獄を見せないでほしい。
「まぁまぁ。今日の放課後一緒に勉強しようよ」
「マジ!? やったぁ!」
子どもみたいに喜んじゃってさ。なんでこんなに暁奈って可愛いんだろ。
暁奈がいるなら今日は化学をやろうかなと思った時だった。
──ブブッ。
スマホが鳴る。いくらロングホームルーム中だといってもスマホを触ることは許されていない。前の席を確認する。日世は不破島くんと数独をやっているようで、1ミリも文化祭の話題に参加してない。
こんな時間に連絡をよこしてくるなんて誰だ。
お母さんは私が学校にいる間に連絡はしてこない。お父さんだってことはまずあり得ない。いや、緊急事態かも。
「ちょっと暁奈、盾になってくれない?」
「なんかあんの?」
「誰かから連絡きた」
「あれじゃない? 浮気『元』彼氏くん」
平然と言ってのけた暁奈の言葉に、心臓がびくりと跳ね上がる。
そういや圭斗のクラスは3組だったような気がする。別れた後も連絡先は消してなかったし、こういうお祭りごとは圭斗の大好物だ。
「ほら、隠してあげるから見なよ」
目の前に小さな背中が迫ってくる。誰と比べてんだって話だけど。
『やほー六花』
『文化祭露店合同だよな』
『俺らアホだから助けてね』
浮気がバレて捨てられた男とは思えない軽さ。
まぁ圭斗のこういう引きずらないところはいいところでもあるんだけど。
「浮気男から?」
「正解。よろしくだってさ」
「よろしくしたくねーよ」
暁奈が苦いものを食べたようにベーっと舌を出す。暁奈は圭斗の悪いところしか知らないから、こういう反応をされても無理はない。
私も今は圭斗にどうこう思う気持ちはないし。そんなこともありましたって感じ。
「普通科の男子ってさぁ、すごいノリ軽いんだよね」
暁奈が私の髪を指でもてあそびながらそう言う。目の前には小さな顔にはめ込まれた形の良いパーツたち。上を向いた睫毛がふるりと揺れた。
「ナンパとか、されちゃうかも」