春の雪。喪主する君と 二人だけの弔問客

始まりの鳥居に立つ

シオンの目の前には、背高い鳥居が聳えている。

その鳥居には、シオンが 今まで 見たことのない、奇妙な注連縄が張られていて、ユラユラと 揺れている。

アニミズ?というのか、どこか 異国の原始宗教を思わせる 独特の形。
注連縄は、鳥居の真ん中に ちょうどいい大きさの『輪っか』作り、 ユラユラと垂れ下がっているのだ。

まるで、『こっち と、あっち』の境目を 知らしめるように。



『 シオンちゃんの、神さんは、何処におる?』


叔母が 夏の たび に 、少しずつ 話をし、祖父がパーツを足してくれた、
長い、長い、豪商の話。それを、全部 レンとルイに 伝えよう。





「正しく言うと ママの話をきっかけに、あたしね、この10日ぐらい前から信楽と、日野に 自分のルーツを辿る旅をしに、一人で来てたんだー。」

「それって、」

レンの眉が、下がる。

「そうだよ、ちょうど 叔母さんが亡くなったぐらいになるの、かな?って思っちゃうよねー。」

「だから あたし、呼ばれたんだね、きっと。叔母さんに。」

シオンは、改めて 白雪姫のような棺
を見つめた。






初代の当主は、襲名する名前の他に 呼び名があり、二名を 『大惣の主』という。

シオンの祖父は、『三代目』。研究家からは、後に『消えた豪商』と言われる一族だ。

現代の日本における、物流経済を作ったとも言える 商人組織。
そんな 近江商人の一端から、巨万の富を財したのが 祖父の一族でもあった。

「滋賀は、近江商人の全国への販売ルート『持ち下がり』の拠点でしょ。それで 日野は、一族の大元締めの地で、お祖父様達が氏子頭をしていた神社は、その聖地みたいなものなんだって。」

シオンは、数日前に 目にした 神秘的な鳥居を 記憶に戻した。

「そこに、叔母さんから聞いた、松の木があるんだよ。」

そう、まずは、『松』の話からだ。
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