春の雪。喪主する君と 二人だけの弔問客
いつから その古い大きな金庫は、シオンの家に あったのだろうか?

母が言うには、ある日 祖父が送りつけてきたとのことだが。

シオンの部屋は 離れにあって、いつも友達が クラブの帰りに寄ったりする。というのも、シオンの部屋は 女の子の部屋にしては 渋く、それが 『いい感じ』らしい。

シオンは いつも学生時代、美術部的なクラブに所属してきたので、どうしても 自分の部屋は 作業をするからか、ちょっとしたアトリエにと化している。そこに、趣味のアンティーク雑貨が混在して、一見 骨董市みたいな部屋なのだ。

その中にあって、存在感を放っているのが、祖父の古い金庫だった。

シオンの友人達は、遊びにきては、この金庫を見ていたので、祖父が亡くなり、シオンが鍵を見つけた際はなかなかの 噂になった。それは、『祖父の金庫』の開放式を 友人達とするぐらいだった。

集まった、女友達の目の前で、恭しく シオンは鍵を差し込み、ハンドルを引いた。

女子達は、さぞかし素晴らしい物が入っているだろうと、期待の眼差しだ。

なのに、入っていたのは、色気なく、金庫の大きさにも 似つかわしくない、3つのモノだった。

玉璽のような風合いの印鑑。

菊紋が入った陶器の貨幣を入れた
陶器の銘々皿。

元は窓に嵌めていたであろう、
ステンドガラス、しかも一部分。

全員が、

『何?!これっ?! これだけ?!』

と叫んだ。




シオンの話を聞いた、レンは くくっと 口の端を上げて 苦笑いをし、ルイは呆れた口をしている。
女ってヤツわという 顔か?

「本当はねー、中に宝石とか、アクセサリー?あわよくば、お金があるかもって、あたしも、友達も 思ってたー!」

シオンは、女ってヤツらしい悪戯な微笑をして、続ける。

「大きな印鑑は 屋号が入ったものだったから、お祖父様の商い決算判だとわかったし、銘々皿も お祖父様の生家で見た物だって、ピンときた。あとは、お金と、ステンドガラスの謎ってなるわけ。」

と、その時 式場の入り口が 『ガタガタっ』と音を立てた。

シオン達は 驚いて、その自動ドアの方を見る。誰か来たわけでは、ない。ようだ。

ひとまず レンが ドアへ寄ると、

「これは、外の風が強いな。吹雪いてるのか?」

独り言のように 言って戻って来た。
そう言えば、少し寒さが増した気がする。
シオンは、自分の両肩を手で抱いた。

「なんか、寒くない?暖房ついてるのに……。」

そんなシオンの姿を見た ルイが、

「外の温度が 低くくなってきたかもな。それとも、暖房が バカになってきてんのか。ああ、事務所に ストーブねーか?」

いいながら、無人の事務所に入って 行く。

レンがで 暖房の温度を上げつつ、

「シオンが見つけた、モノ。きっと、お祖父様が大事にしたもの。ってことだよね?」

聞いたので、シオンは 少し間を開けて 頷く。
ルイが、黒い ダルマストーブを担いできた。

「いーもん、あった。これも点けよーぜ。さみーよ。」

きっと、店でも点けているのだろう。

「シオンが染め付けた、あんな皿が入ってたんだろ? 入ってたのが祖父ーさまが 売ってた皿ってことか?」

そう言いって、ダルマストーブの前蓋を開き、ネジを回す。スイッチを引き落とすと、ストーブの前窓に火が上がった。

メラメラと燃える火が見えると、それだけで温度が変わる気がする。

「うん。でもね、『売ってた』でなく、『作ってた』皿なんだよ。」

「近江商人の マーケティングの賜物なのかな?『初代』さんも、『二代目』さんも、お酒業から料亭 、宿業も手広くやるようになるの。 物流を主軸に、オーナーって形なんだけど、」

シオンは 再び

「お江戸の『懐事情を支える 税収』って、『何がメイン』だと思う?」

と、レンとルイに問題をだした。

「時代劇の世界だから、米だろ!!」
ルイは即答だ。でも、レンは冷静にシオンに返した。

「うーん、それは『物納』だよね。『懐事情』なら、文字通り『税金』て、ことかな?」

手をダルマストーブに かざして、
シオンは 二人に 語る。

「そーゆーこと。で、税収の断トツ1位が、お酒!で、製糸、繊維織物なんだ。お金で税を納める力で、お祖父様の一族は、モノ文化を武器にすることに転向するの。酒業から、茶道や料亭陶器の窯 を 、興すことわけ!」

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