上司は優しい幼なじみ
「俺、陽菜が告白してくれた時、すげー嬉しかった。でも、俺は陽菜が思っているような人間じゃない。ダメなやつなんだ。陽菜と幼馴染以上、上司と部下以上の関係になって、がっかりさせることもたくさんあるかもしれない。自信がないんだ」

その言葉に、半田さんから聞いたことを思い出す。
たっくんと山本さんは、お互いが完璧でいようとしていたことが負担になり、それが原因で別れた。
きっとたっくんは、私が完璧なたっくんを求めていると思っている。

今度は彼をそっと抱きしめた。

「…私、知ってる。たっくんと山本さんのこと。馴れ初めも、別れたときのことも。私はありのままのたっくんが好き。だって、子供のころからずっと好きだったんだよ?がっかりさせるとか、そんなの気にしないでほしい。自信とか、そんなのもいらないよ」

気づくと私は彼の腕の中にいた。
少し体を離ししばらく見つめあうと、どちらかともなく唇を重ねる。
角度を変え、少しずつ少しずつ深くなっていく。

たっくんはジャケット脱ぎ、私をベッドに押し倒した。

私に跨り、強く唇を重ね、再び私を深い沼に落としていく。

このまま体を委ねると覚悟を決めたその瞬間、たっくんの動きが止まった。

「…たっくん?」

「…まだ、付き合おうって言っていないのに、先に進もうとしたな」

後頭部をクシャっと掻きながら、笑みを含ませそう言う。
私の体を優しく抱き起し、唇についた髪を手で整え、真っすぐ見つめる。

「…付き合おう、陽菜」

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