上司は優しい幼なじみ
「そ、そうかな…?」

とぼけた顔して誤魔化してみた。
たっくんはそれ以上何も言わず、笑みを浮かべながら車を発進させた。

週末ということもあり、一般道路は混雑気味。
でも、これも醍醐味のひとつ。
ドライブデート気分を少しでも長く味わえると、思わず頬を緩ませると、たっくんはスマホを取り出し慣れた手つきで操作をする。

「…この時間だと高速乗った方が速いな。次の角でこの道外れるわ」

車を乗りこなしている彼は、目的地までのルートも完璧に計算している。
その何気ない姿に心臓が跳ねた。

たっくんの計算通り、高速に乗った瞬間スムーズに車が進み、あっという間に横浜まで到着した。
駐車場も運よく空車が見つかる。
そう言えば、今朝見た情報番組の生まれ月の運勢ランキングで、私の月が一位だった。
この運の良さは一位であるが故の奇跡だろうか。

「それにしても…人凄いね」

中華街まで歩いてくると、人の多さに圧倒された。

「とりあえず、歩くか」

一歩歩くごとに左右から食欲をそそるような香りに惹かれる。
肉まん、小籠包、餃子…ここで一日分食べてもいい。脳が麻痺しそうなくらい、ここは沼だ。

「凄いね、エビ入り肉まんだって」

お互い同じものを買い、人の波を避けて隅で立ち止まる。

「陽菜、絶対かぶりつくなよ?熱いから」

「わかってるって」

小さく手で割り、熱気を冷まして食べる。
ほっぺたが落ちるとはよく聞くものだが、まさにそんな感覚に陥った。
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