ぜんぜん足りない。

今日覚えた。
これたぶん、ちょっと大人なキス。

こおり君のセリフは魔法みたい。言われたとおり、こおり君のことしか考えられなくなってしまった。



「なんか……こおり君」

「うん」

「今日ね、ちょっと甘いよ……」

「甘い?」

「ちょっとじゃない、だいぶ、ものすごく甘いよ……。なんで……?」


目を細めるばかりで答えてくれなかった。
このまま何も言ってくれないんだと思った。


だから──────
びっくり、した。


わたしが一方的に掴んでたこおり君の手を

ふいに、同じ強さでぎゅうっと握り返されて。



「このまま朝まで繋いでよーか?」


……なんて声が耳元で響いたから。

キスより破壊力抜群のものが存在するなんて知らなかった。



「あ……え? つ、繋ぐ……」


バックンバックン。
心臓故障中しちゃったみたい。


すぐに「冗談」というセリフと共に笑い飛ばされたけど、そのたしかな手の感触は一生忘れないと思った。

大げさすぎるかな。
でも本気でそう思ったんだよ。


……こおり君といると本当に、しんぞうもたない。

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