ぜんぜん足りない。

「なっ、ええとあの、無視しないで答えてよっ」

昨日のキスを思い出して、めいいっぱい離れた距離から話しかけると、律希は視線だけをこちらに寄越して、ひとこと。


「家ない」

「へ?」

「帰るとこなくなった」

「えっ。いや、だって律希、……え?」


イエナイ?
カエルトコナクナッタ?


「律希、あっちの高校で寮に入ってたじゃん」


そう。律希は中3の冬、わたしに嘘をついて別の高校を受験した。


「停学になって追い出された」

「停学⁉」

「だから2週間、帰るとこない」

「……そ、それを先に言ってよ!」


ソファにつかつかと歩み寄る。


「ていうか停学ってなに?なにしたのっ?」

「……暴力で」

「暴力沙汰っ!?」

「うん」

「嘘だ!」


思わずそう叫んだら、思いっきり顔をしかめられた。

< 121 / 341 >

この作品をシェア

pagetop