ぜんぜん足りない。

「お前近い」

「えっ」

「昨日あんだけ嫌がってたくせに、馬鹿じゃねぇの、学習能力ねえのかよ」

「え……」


散々な言われようにびっくり。すごい睨まれるから、反射的にたじろいでしまう。

昨日この人にキスされて泣いてしまったのは事実。

わたしはそのことに怒ってたのに、キスした張本人に先にキレられた場合、どう反応していいかわからない。



「てか。“嘘だ”ってなんだよ。停学はマジだし、2週間ここに泊めてもらう。悪かったな、冗談じゃなくて」

「え…いや、疑ってるのはそこじゃなくて……」


怯みつつも必死で言葉を繋ぐ。



「律希が暴力、するわけないと思って……」

「 、……え」

「そーいうの、昔からしなかったじゃん、律希は。口は悪いけど、弱い者いじめとか絶対しないし、いつも真っ先に助けに行く側で」

「………」


わたしを睨む目つきがだんだん元の形に戻っていく。かと思ったら、通り越して今度は丸くなっていく。

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