ぜんぜん足りない。

「……知ったような口きくな」

「でも、暴力はしてないよね」

「やったから今ここにいんだろ」

「でも律希はしないよ、」

「るせぇな」


鬱陶しい、ってその顔が言った。


「また口塞ぐぞ。いーのかよ」

「それは、絶対だめ……」

「………」


ふいっと律気がそっぽを向く。視線はテレビ。
律希との沈黙が気まずいなんて初めてかもしれない。


喧嘩なんて今まで何回もしてきたけど、こんなに妙に重たい空気になることはなかった。

全部昨日のキスのせいだ。
律希がふざけてあんなことしたせいでこうなってる。



「あっそうだ! お夕飯なに食べたい?」


わざと明るい声を出した。


「……夕飯?」

「うん、食べるでしょ?」

「食う。けど、俺がつくる」

「えっ」

「泊めてもらうんだから、そんくらいする」


あくまでテレビを見つめたままそう言った律希。
なんか、よそよそしい。
やっぱりキスのせい?


「……じゃあ、お鍋焦がさないでね」

一緒に住んでたときの空気感を思い出して、軽口を叩くのが精一杯だった。
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