ぜんぜん足りない。
わがまま言えない。

.

.


保健室は諦めて、近くの水道で血を流した。

こおり君はそれを、少し離れた場所で待ってくれていた。


ピンポンパンポーン…と呼び出しのチャイムが鳴ったのは、水で流した部分をハンカチで押さえいたとき。



『2年2組の郡光里、国立桃音! 至急職員室に来るように!』



締めのピンポンパンポーン…が鳴り終わらないうちに、ブツっと乱暴に放送の電源を切る音がした。


やばいかも! ご立腹だ……!



「待たせてごめんね、ダッシュで行ったほうがいいよね」

「走れんの?」

「うう、走るよ」

「やめときな。また転びそうで怖い」



棒読みで軽口を叩かれる。

学校でこおり君と普通に話してるって不思議な気分。


ここだけ切り抜いたら、友だちみたい。

これは、彼女じゃなくなったから……なのかな。

別れたほうが普通に会話できるって、皮肉な話だね。

< 205 / 341 >

この作品をシェア

pagetop