Your Princess
「今日はここまでにしようか」
夕方。
手を止めて。ペンを置く。
久しぶりの授業は正直、疲れた。
ライト先生のほうは疲れを見せず。
カバンにペンやテキストをしまうと。
さっと立ち上がった。
「先生、玄関まで送りますわ」
私も立ち上がる。
授業中、ずっと不思議な感覚に襲われていた。
不安だった感情がライト先生と一緒にいるだけでこんなに和らぐとは思わなかった。
実家に住んでいた頃は、モヤモヤした感情はあったけど。
苦しい…って毎日自分を責めることはなかった。
憧れていた外の世界が。
ずっと望んでいたことなのに。
苦しいとは…。
先生と一緒にいるときだけ。幸せだなーって思ってしまう。
私としては、もうちょっとライト先生といたいのに。
ライト先生は速足で玄関の扉を開けた。
「あの、先生。明日も来てくれるんですよね?」
一か月前。「また、明日」と言って。
それっきり先生は姿を消した。
また、同じことが起こるんじゃないかって不安になった。
先生は眼鏡のズレを直すと。
私を見た。
「カレンさん。僕はね、お金さえ払ってくれれば、ちゃんと仕事はしますよ」
その言葉を聴いた瞬間。
顔に熱が帯びるのを感じた。
…恥ずかしい。
何を馬鹿なことを聴いてしまったのだろう。
先生だって生活があるのだ。
タダで教えてくれるわけじゃないのだ。
「ごめんなさい」
泣きそうになって、俯く。
「大丈夫さ。それよりも、君の旦那さんは良い人だね。大切にしなさい」
「え?」
先生は帽子をかぶると。
「じゃあ」と言ってスタスタと歩いていく。
蘭がいい奴?
「カーレン!」
呆然と先生の後ろ姿を見ていたら。
誰かに抱き着かれた。
視界にフワフワの黒髪が目に入る。
「勉強終わった?」
人懐っこい目で見る渚くんに、思わず声が出なくなる。
「カレン? どうしたの?」
渚くんが首を傾げる。
「あのさ、渚くん」
渚くんの腕を振り放す。
日中暖かった空気が。
少しずつ冷たい空気へとなってくる。
「一応、私は主の奥さんなわけで。それで、私は君よりも年上なわけで」
きょとん。
まさしく、その言葉に当てはまるかのような顔つきで。
渚くんは彫の深い顔で私を見た。
瞳の色が黒という人物に出会ったことがないので。
その目で見られると「ひぃ!」と悲鳴をあげそうになる。
だけど、最初が大事だ。
ここで優しくしてしまったら、ナメられるに違いない。
こんな顔を隠したブスな女だけど。
蘭の奥さんなわけだし。
そこだけは胸を張ってもいいだろう。
「カレンっていくつ?」
「へ? 15歳だけど」
「じゃあ、僕と同い年だから問題ないよ~」
そう言って、渚くんは笑って走り出した。
そして、庭の奥からクリスさんがやってきた。
「やあやあ、カレンちゃん。今日も美しいね」
ニッコリと笑うクリスさんに、クラクラとしてしまう。
何故、こんなに素敵な人が庭師なのか。
「クリス。俺とカレンって同い年なんだよ!」
そう言って渚くんは、クリスに抱きつく。
すこぶるスキンシップの激しい男の子だ。
夕方。
手を止めて。ペンを置く。
久しぶりの授業は正直、疲れた。
ライト先生のほうは疲れを見せず。
カバンにペンやテキストをしまうと。
さっと立ち上がった。
「先生、玄関まで送りますわ」
私も立ち上がる。
授業中、ずっと不思議な感覚に襲われていた。
不安だった感情がライト先生と一緒にいるだけでこんなに和らぐとは思わなかった。
実家に住んでいた頃は、モヤモヤした感情はあったけど。
苦しい…って毎日自分を責めることはなかった。
憧れていた外の世界が。
ずっと望んでいたことなのに。
苦しいとは…。
先生と一緒にいるときだけ。幸せだなーって思ってしまう。
私としては、もうちょっとライト先生といたいのに。
ライト先生は速足で玄関の扉を開けた。
「あの、先生。明日も来てくれるんですよね?」
一か月前。「また、明日」と言って。
それっきり先生は姿を消した。
また、同じことが起こるんじゃないかって不安になった。
先生は眼鏡のズレを直すと。
私を見た。
「カレンさん。僕はね、お金さえ払ってくれれば、ちゃんと仕事はしますよ」
その言葉を聴いた瞬間。
顔に熱が帯びるのを感じた。
…恥ずかしい。
何を馬鹿なことを聴いてしまったのだろう。
先生だって生活があるのだ。
タダで教えてくれるわけじゃないのだ。
「ごめんなさい」
泣きそうになって、俯く。
「大丈夫さ。それよりも、君の旦那さんは良い人だね。大切にしなさい」
「え?」
先生は帽子をかぶると。
「じゃあ」と言ってスタスタと歩いていく。
蘭がいい奴?
「カーレン!」
呆然と先生の後ろ姿を見ていたら。
誰かに抱き着かれた。
視界にフワフワの黒髪が目に入る。
「勉強終わった?」
人懐っこい目で見る渚くんに、思わず声が出なくなる。
「カレン? どうしたの?」
渚くんが首を傾げる。
「あのさ、渚くん」
渚くんの腕を振り放す。
日中暖かった空気が。
少しずつ冷たい空気へとなってくる。
「一応、私は主の奥さんなわけで。それで、私は君よりも年上なわけで」
きょとん。
まさしく、その言葉に当てはまるかのような顔つきで。
渚くんは彫の深い顔で私を見た。
瞳の色が黒という人物に出会ったことがないので。
その目で見られると「ひぃ!」と悲鳴をあげそうになる。
だけど、最初が大事だ。
ここで優しくしてしまったら、ナメられるに違いない。
こんな顔を隠したブスな女だけど。
蘭の奥さんなわけだし。
そこだけは胸を張ってもいいだろう。
「カレンっていくつ?」
「へ? 15歳だけど」
「じゃあ、僕と同い年だから問題ないよ~」
そう言って、渚くんは笑って走り出した。
そして、庭の奥からクリスさんがやってきた。
「やあやあ、カレンちゃん。今日も美しいね」
ニッコリと笑うクリスさんに、クラクラとしてしまう。
何故、こんなに素敵な人が庭師なのか。
「クリス。俺とカレンって同い年なんだよ!」
そう言って渚くんは、クリスに抱きつく。
すこぶるスキンシップの激しい男の子だ。