求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「遥人さんと別れて頂けますか?」
予想していた言葉でも鋭く胸に突き刺さった。
「あなたには身を退いて欲しいんです」
それは出来ないと、今すぐはっきり答えるべきだと分かっている。でも日奈子に比べて条件の劣る自分の立場を思うと弱気になる。何より遥人の本来の相手は彼女だという思いが拭えない。
「聞こえてますか?」
黙ったままの結衣に、日奈子が責めるような声を出す。
「……ごめんなさい、それは無理です」
「どうしてですか? 婚約している訳でもないのに」
「それはそうですけど、いきなり別れろと言われても……あの、才賀君はこの件を知っているんですか?」
知っているはずがないと信じている。分かっていたら彼は日奈子を止めたはず。
あえて口に出したのは、そう言えば日奈子が怯んで帰ってくれると思ったからだ。
けれど日奈子は僅かに顔色を変えただけで引き下がらなかった。
「遥人さんが知らなかったらなんだと言うのですか?」
「この問題は彼の気持ち次第だと思うんですが」
ようやく言葉が出始めた結衣を、日奈子は呆れたような目で見つめた。
「あなたと私達では結婚の考え方が違うんだと思います。もしあなとの言う気持ちだけで結婚したとして、遥人さんの家族に歓迎されると思ってるんですか?」
「それは……」
結衣は遥人の家族と会ったこともないのだ。答えられるはずがない。
「正式に婚約しいていたくらいですから、当然私との結婚は彼の家としても望んでいます」
日奈子は自信満々に言う。
「そうでしょうね」
その点に関しては結衣も認めるしかない。だけど先ほどから日奈子に圧されている一番の問題は家柄などではなかった。
たとえ出会いが政略結婚なのだとしても、彼が日奈子を愛していたのだとしたら。そう考えると不安なのだ。
(才賀君がもし記憶を取り戻したら)
そのとき、遥人が必要とするのは結衣ではなく、日奈子。
彼が告げてくれた言葉を信じたい。だけどあの事故の日、遥人は結衣との約束がありながら日奈子に会いに行っている事実がある。