求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
強く抱きしめられたことは言うつもりはない。もし話せば遥人は気にするだろうから。

「俺は……」

余程衝撃だったのか遥人は言葉に詰まっている。

自信なさそうに視線を彷徨わす様子は彼らしくなく、そんな姿を見るのは辛かった。

「ごめん、私そろそろ行くね。明日も仕事だし早く帰りたいから」

まだ何か言いたそうな遥人に「お疲れ様でした」と言いその場を離れる。

彼の前では我慢していたけれど、どうしようもなく胸が痛かった。

(私ってバカだよね。自分から失恋しに行くんだから)

気にしないでねなんて平気なふりをして言ってしまった。

本当はまだこんなに好きなのに。

でも、旅行の約束までした仲だったと言い、それでもし彼が戻って来てくれたのだとしても同情や責任感でしかない。

結衣の望む形ではないのだ。

心がない人に縋るような真似はしたくなかった。彼に負担をかけないように終わりにしたかった。

だけど自ら手を離したことを、早くも後悔している。

目の奥が熱くなり視界がぼやけて来る。


早歩きをしながらぱちぱちと瞬きをした。

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