さよなら虎馬、ハートブレイク
 

「あとごめん模造紙5枚追加で準備してもらえると嬉しいんだけど」

「了解です、職員室から貰ってきますね」

「さっすが委員長! マジ神〜っ」


 よろしく、と申し訳程度に合掌するなり私の横をすり抜ける男子を目で追って、もう一度彼女に照準を合わせる。

 明らかキャパオーバーの荷物を抱えているのは背中からでも見て取れるのに、手伝いもせずそれどころか更に追い討ちかけるって。児玉さんが神なら、あの男子は鬼だよ。



「児玉さん」

「ぼぁッ!?!」


 呼びかけた瞬間、児玉さんが過剰に飛び上がったことで絶妙なバランスを保っていた段ボールの底が抜け、中身の資料が撒き散らかった。
 廊下の床一面を覆い尽くす資料の山に、ギョッとして慌てて駆け寄る。


「ごめん、急に呼びかけたから」

「ぜぜぜぜ全然全然です! そんな! ああ! 拾わなくていいですよ凛花さんの手が汚れちゃいまsッ」

「………凛花(・・)さん、?」


 聴き慣れない響きに自分を指差してキョトンとする。

 そうすれば眼鏡の奥の瞳がしまった、みたいな色をして慌てて資料を掻き集めるから、反射的にその腕を掴んでいた。














「…ふぁ、ファン?」

「…………その…入学当初からその…えっと…と、藤堂先輩と…凛花さんのタッグいいなって思ってて…」


 ごにょごにょ、と言葉を濁す児玉さんのことをお昼に誘ったのは私の方だった。今までなら単独で誰かを誘うなんて絶対できっこなかったけど児玉さんの言葉も気になったし、私自身にも〝しおり〟があった。

 卵焼きを飲み込んでから呟いた言葉に、児玉さんはこくっ、て恥ずかしそうに両眼を閉じて頷く。


「だってお二人最高じゃないですか。イケメンと男嫌いですよ、逃げ惑う後輩と追う先輩、美男美女、目の保養、あ、追うしかねえ、あ、イケメンしか勝たん、可愛いなあ凛花さん可愛いなあ凛花さんって呼んでいいかなあ妄想だからいっかあからの思わず飛び出た凛花さんです」

「…ん、うん」


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