幸せと隣り合わせの君に蜜
25話 離れ
 朝の日差しが心地よく私を包んでいる。
三月になってから少し寒さも和らいできた様子。
少し残る寒さと温かい日差しに包まれて私は家を出た。

 仕事の休み時間に私は携帯を取り出すと、メールを開く。
開くと結月の名前がある。

――今日、卒業式だった。一歩前進――

 一緒に送られてきたのは制服姿の結月の写真。
「卒業式か」
 私の卒業式なんて遠い昔のように感じる。
なんだか青春をわけてもらっているようだった。

 あの日からも結月とは今まで通り連絡を続けている。
唯一違うのはあの日から全くと言っていいほど会っていない。
問題になるような行為はもうしたくない。
その気持ちを持つようになってからどんなに寂しくても不安になっても会わないことにしていた。
どうしようもなく声が聞きたいときには電話をして気を落ち着かせていた。
今までこんな気持ちになることがなかった私。
結月と会って私は確かにいつもと違った。
でもそれはいい変化だったのかもしれない。

 仕事に戻ると、この会場の責任者である前川さんという人物に私は呼ばれた。
前川さんに名前を呼ばれるのはあまりいい気分ではない。
むしろ嫌な予感しかしなかった。
「都築さん」
 近くに行くともう一度私の苗字を呼ばれて背筋が伸びる。
「4月になったらここに行ってほしいの」
 そう言って渡されたのはまだできたばかりの結婚式場だった。
「え……」
 嫌な予感が的中している。でも予想をはるかに上回ってきて受け止められずにいた。
「あなたは最近かなり仕事を頑張ってるし、信頼性もある。だからあなたには新しい会場で自分の力を発揮してほしいの」
 今までの自分だったらきっと素直に喜んでいた。嬉しいことだった。
でも頭をよぎるものはその反対の感情を呼び起こす。

その式場はここから遠い。
引っ越し先を考えなければいけない。
新しい式場となれば当分の間はそこにいることになるだろう。
そうなると、ここには戻ってこれない。
戻ってこれないということはもう結月とは会えない。
たとえ今会えない状況が続いていても、もう少しで結月と会うことが許される。
その結月に会えない。
彼はもう進学先を決めている。
ここに近くていい大学。
その彼はきっと忙しくなることはわかっていた。

 渡された資料を見ながら私は茫然としていた。
それでも仕事になれば笑顔を作らないといけない。
表面上笑う私の中は不安でいっぱいだった。
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