【完】淡い雪 キミと僕と


「お前はいいねぇ」

わたしの手の中で無邪気に遊ぶ子猫。

老いも若さも関係はない。それどころか、一緒にいる年月を重ねて行けば行くほど、このみすぼらしい子猫に情が沸いて離れられなくなるのは、わたしの方ではないのか。

それがとても怖かった。

わたしに向けられる想いが純粋でひた向きであればある程、いつか価値観さえ変えて行ってしまいそうな、小さな命が恐ろしい程怖かった。

「雪、」

「みゃあ~」


どうしてそんなにひた向きでいれると言うのだろう。

弱々しく、放っておきたら死んでしまいそうな儚さがあるのにそれでも懸命に生きようとする。
母猫に見放され、捨てられ、そんな惨めなストーリーを背負いながらも、何故その手を伸ばし続けるのだろう。

わたしだったら、そんな惨めな状況に立たされたら、死んでしまった方がマシだと思ってしまうだろう。

誰からも必要とされず、1番に自分の存在を肯定してくれるはずの母親に見捨てられ、そんな無様な姿を晒しながらも、生きようとする。

この子の見た目はこんなにみすぼらしく惨めなのに、その命は凛として美しい。


わたしもそうやって生きれたのならば、どれだけ良かっただろう。


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