【完】淡い雪 キミと僕と

「アンタたち家族旅行の話をしている時、俺は全然両親と楽しく遊んだり、旅行したりっていうのは記憶にないんだが
たったひとつ、ほんっとうに幼い頃に一度家族旅行をした時の事を思い出した。
その時に行った小さな旅館は子供ながらにワクワクとした造りの所でなぁ。あれは多分、北海道だったと思う。しんしんと雪が降り積もっていた。
父の知り合いらしいが、今度出向いてみようとも思う」

「そうなの。でも、思い出せて良かったわね。
きっと辛い事ばかりではなかった筈。だってお母さまがあなたを嫌いな訳ないもの…。
北海道、いいわね。わたし、1回も行った事がないの、井上さんからよく話は聞いていたけど」

そうだ。井上さんからはよく話を聞いていた。

彼が育った街の事。雪の余り降らない東京で生まれて育ち、そのどこまでも続くような雪化粧はテレビや本の中でしか見た事がない。

雪には、色々な種類があるらしい、とか。雪の匂いとか。実は雪がしんしんと降り注ぐ日の方が暖かいとか。

空が紫色に染まる夜の話。きっと、空気もよく澄んでいるのだろう。空も高く見える筈。

「そうか、今度一緒に行こうか」

「はい?!」

「いや、一緒に北海道に。だって行った事がないんだろう?」

だからこいつって時たま思いもよらない発言をする。

そういう時のこいつの顔は何故かとても優しくて、時たま井上さんの事が言えない位天然なんじゃないかって思う。


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