【完】淡い雪 キミと僕と
ひとしきり美麗を抱きしめた後、彼女を家まで送った。
名残惜しいとは、この事を言うのだ。美麗と雪が降りた車は、どこかぽっかりと穴が空いたような変な喪失感に包まれた。
そしてひとりぼっちになってしまった車の中で、会社にたどり着くまで憂鬱な気分だった。
祖父の話と言うのは恐らくは菫さんの事だろう。菫さんと言うよりかは篠崎リゾートとの、これからについて。彼女との縁談がまとまっているのならば、円滑に進んだ話だったのだろう。
そして昨夜の電話。
あれはかなり一方的に電話を切ったと同じ。電話の先の菫さんは納得しちゃいないと雰囲気だった、けれど美麗を不安にさせたくなかったから、何事もなかったかのようにこちらから一方的に切った。納得いくまい。
ハァー…。
ハンドルに手を掛け、思わずため息が漏れる。
実際は美麗の言う通りなのだ。俺の結婚は俺だけの問題では、ない。
父はそうではないと言ってくれた。俺の選んだ人ならば文句は言わない、と。全く父親らしくない男から初めて聞いた父親らしい言葉だった。
いつも祖父の後ろに隠れ、彼の言う事に逆らわずにイエスと言い続けた忠実な犬のような人、だと思っていた。だからあのような発言をした事は今でも驚きだ。まるで俺の心を見透かしたように。
けれど、祖父は父とは違う。俺の結婚さえあの人にとって見れば会社を大きくする為の、材料に過ぎないのだ。
会社に着き、真っ先に会長室へ行く。
重い扉を開けた先に、黒い皮椅子に腰をおろした祖父がいて、椅子を後ろへ回し、窓から外を見つめていた。
父は相変わらず情けない背中を落とし、少し猫背気味で来客用のソファーに座っていた。
重苦しい雰囲気だった。