【女の事件】とし子の悲劇・2~ソドムの花嫁
第50話
阿南市才見町のひろみちの実家の家屋は、解体されることになった。

ひろみちの両親は、親族が警察署に失踪の申請を出した。

残された家族はひろつぐだけになったが、ひろつぐはヘルパーさんの手助けがなければ生きて行けない状態になっていたのでそのまま福祉施設で暮らすことになった。

10月20日に、てつやさんが徳島県警に逮捕された。

てつやさん…いえ、てつやはケーサツの取り調べに対して『とし子はブラック会社の社長の肩を持ったからとし子に仕返しをするためにした!!』と言うたあと、黙秘権を行使した。

同じ日のことであった。

三原市で暮らしているアタシの母と兄夫婦がアタシのことを心配して高松へやって来た。

宮脇町のマンスリーマンションのアタシが暮らしている部屋にて…

アタシの母は、6度も離婚と再婚を繰り返していたことを聞いて、もうしわけない表情でアタシに『つらかったら三原に帰ってきてもいいのよ。』と言うた。

アタシは、女ひとりで生きて行くから三原に帰らないと告げた。

「アタシは、女ひとりで生きて行くから三原の家には帰らないから…今回の一件で、アタシは新しい恋も、再婚もしたくないから…アタシを自由にさせてよ…家に帰っても、またアタシに再婚をしろと言いたいのでしょ…もうたくさんよ!!」
「とし子…今回のことは、お母さんも悪かったと思っているわよ…再婚するのがイヤだったらしなくてもいいのよ。」
「だったら、アタシを自由にさせてよ。」
「分かってるよ…」
「お母さんに聞くけれど、女の幸せは結婚をして赤ちゃんを生む以外はないのかしら!?」
「そんなことは言ってないわよ…お母さんは、女の幸せは結婚をして赤ちゃんを生むことだけしかないと言うことに気を取られていたので、知らないうちにとし子を傷つけてしまった…」
「お父さんはふざけているわよ!!何がアタシの花嫁姿が見たいよ!!他に楽しみがないからアタシの花嫁姿と言いたいのね!!何とか言いなさいよ!!やくざにうらまれるようなことをしたから、地獄へ墜ちて当然だわ!!」

アタシの言葉に対して、母はしくしく泣きながらこう言うた。

「とし子…お父さんを許して…お父さんは…やくざにうらまれるようなことは一切していないのよ…お父さんは本当にとし子の花嫁姿を見ること以外に楽しみがなかったのよ…職場と家庭の往復だけで、お給料は全部家族に渡していた…まっすぐ家に帰る人だったのよ…出された食事だけを食べていた…お給料引きで注文しているお弁当を楽しみにしていた…冷めているお弁当でも『おいしいおいしい…今日のお弁当がおいしい…』と言うて食べていたのよ…与えられた仕事を繰り返すことしか知らない人だった…お父さんは、ヤクザにうらまれるようなことをする人じゃなかったことはほんとうなのよ…」
「どんなに言うても、アタシは信用しないわよ!!アタシの花嫁姿が見ることしか楽しみがないなんて、ふざけているわよ!!アタシはお父さんなんか大嫌いよ!!」
「とし子…どうしてお父さんがやくざの鉄砲で撃たれて亡くなったのかが分かっていないわね!!」

母は、ひと間隔を空けてからアタシにこう言うた。

「とし子…お父さんがあの日…どうしてやくざの鉄砲で撃たれて亡くなったのかを思い出してちょうだい!!とし子はやくざにうらまれるようなことをしたからと言うけど、お父さんはやくざにうらまれるようなことは一切していないのよ!!それなのに、お父さんが亡くなった…その原因はとし子にあるのよ!!」
「アタシにどんな落ち度があったと言うのよ!?」
「とし子が中学の時、糸崎の中学の男子生徒のカレと付き合っていた時に別れ話がこじれたあと、ストーカーがアタシを追いかけてくるので怖い…助けて欲しいと母さんに求めてきたじゃない…父さん、武方さんにお願いしてカレにガツンと言うてお願いしたのよ…その時武方さんは、問題のカレの家に行った…武方さんはカレの家の親きょうだいの前でどぎつい声でとし子のカレがとし子にストーカーをしていた…どうオトシマエをつけるのだと言うて凄んで行ったのよ!!カレのお姉さんは、婚約を破棄された…お兄さんはせっかく内定をいただいた会社から内定を取り消された…カレも私立高校の推薦入試に落ちた…カレの家の人生がズタズタに傷ついた…折りが悪いことに、カレの家の親族にやくざと付き合っていた人がいたのよ…やくざと付き合っていた人が、お父さんに強いうらみを抱いていたのよ!!」
「それでお父さんが、やくざの鉄砲に撃たれた…」
「そうよ…とし子もいけないのだよ!!やくざと付き合っている親族がいる家の子息とお付き合いをしていたから、とし子は危ない目に遭ったのよ!!」

母の言葉を聞いたアタシは、何と言えばよいのか分からずに戸惑っていた。

アタシが…

ストーカーの被害に遭いかけた過去があったなんて…

ゼンゼン知らなかった…

結局アタシは、迷った末に女ひとりで生きて行くことを選ぶことにした。

夕方4時過ぎに、アタシの母と兄夫婦は高松駅から快速マリンライナーに乗って三原市の実家へ向かった。

アタシは、女ひとりで生きて行くことを選んだので、今さら引き返すことはできないと思った。

アタシは、一度決めたら変更をすることができない性格だから、どうすることもできない。

今度は再婚をしない…

新しい恋なんかしない…

アタシは、高松駅のプラットホームにたたずんで、何を考えていたのだろうか…
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