清廉で愛おしい泡沫の夏
 廉は、あれからあまり美夏ちゃんに近づかなくなった。
 最近の廉のテンションは、明らかに、低い。
 ちょっとかわいそうな気もするが、してやれることは、特にない。
 彼女は、そんな廉の様子を見ながら、楽しそうにしている。
 挑発することはなく、傍観に徹しているようだ。
 彼女の、あの表情は、あれ以来、見ていない。

 美夏ちゃんは、下でずっと勉強を教えていた。
 最初の日は、30人ほどだったのが、日がたつにつれ、どんどん増えていった。
 美夏ちゃんに勉強を教えてもらっている奴が言うには、美夏ちゃんは、全員の名前と、それぞれの再試の教科を、完璧に覚えているらしい。
 1年生から3年生までの教科をすべて教え、それぞれの弱点まで把握してるという。
 相当頭がよくないとできないことだ。
 それに、俺たちといるときは、あまりしゃべらないのに、下にいるときは、よくしゃべっているし、とても楽しそうだ。
 
 ま、そりゃ気に入らないわな。。
 自分の前だと笑ってくれないのに、ほかの男といるときは、元気に笑っているなんて。

 廉は、二階からずっと美夏ちゃんを見ていた。
 たぶん、自分には笑ってくれない悲しさとか寂しさとか、笑顔を向けられている奴らへの羨みとか嫉妬とか、でもやっぱり楽しそうにしているのはちょっと嬉しいとか、そんな感情が、渦巻いているんだろうな。。
 彼女が楽しそうにしている気持ちもなんだか、わかってきた。
 恋愛に興味なんてなかった廉が、初恋の味を味わってるって感じが、ちょっと楽しいかもしれないと、最近思い始めた。


 



 「お泊り?」

 廉と美夏ちゃんが知らないところで、こっちでは勝手に盛り上がっていた。
 「うん!明日から土日ですし!」
 以前とは全く変わって威厳がなくなってしまった廉に、琉がしびれを切らし始めたようだ。
 琉は、廉のことをとても慕っていたので、恋に悩む廉の姿なんて見たくない、廉なら恋した相手にはバシッと決めてほしい、と時々嘆いていた。
 
 つまり、お泊りで2人の距離を縮めよう作戦、だ。
 














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