清廉で愛おしい泡沫の夏
 「もう寝ちゃったの⁉」
 琉がそう叫んだ。
 時刻は9時。
 俺たちは、近くの温泉から帰ってきたところだった。
 7時くらいまでみんなで遊び、大勢で食べるといったら鍋でしょ!ということで夜ご飯に鍋を食べて、2人を残してお風呂タイムだったのだ。
 「美夏はいつも寝るのが早いのよ。」
 帰ってくると、出迎えてくれたのは、彼女1人だった。
 確かに良い子は寝る時間かもしれないが、高校生にしては早いな…

 「えー!夏の夜といったら、恋バナでしょ⁉お泊り会はここからが本番なのに!」
 「ふふっ。それで、それ?」
 そう言って、琉が袋から取り出してテーブルの上に置いていったものを見る。
 「だめよー、お酒なんて。体に悪いわ。」
 と言いながらも、彼女は、お酒に手を伸ばし、慣れた手つきでプルタブを開ける。
 「飲むんかい‼」
 要がツッコんだ。
 「お酒が入るとなんでも話しちゃうわよね。それで、美夏の恋愛事情を聞きたかったのね?」
 と彼女は笑いながら話す。
 お酒を飲みながら、微笑む彼女は、なんとも色気がある。
 「そーですよ!それなのに寝ちゃうなんて!ねぇ、廉くん!」
 琉もお酒に手を伸ばす。
 飲む前から、相変わらずテンションが高い。
 「いや、まぁ。。」
 こっちも相変わらずな無口&無表情だ。


 彼女たちの家はとても大きかった。
 初めて家に送った時から思っていたが、とにかくでかい。
 最初は両親と4人とか、祖父母も一緒の3世帯家族とか、と思ったが、聞けば姉妹の2人暮らしだという。
 それで空いている部屋もあるから、と今回のお泊り作戦は決行されたのだ。
 結局、作戦の中で最も重要な恋バナは、失敗ということになってしまったが。。
 それでも、お泊り会はやってよかったな。
 美夏ちゃんは、遊んでいるときは普通に話すし、普通に笑っていた。
 今まであんまり笑ってくれてなかったのは、単純に特に笑うこともなかったからなんだろう、
 再試組たちと楽しそうに話していたように、ご飯のときも、トランプなどで遊んでいるときも、普通に楽しんでいるようだった。
 そんな美夏ちゃんの様子を見て、廉も表情には出さないながらも嬉しそうにしていた。
 最近は美夏ちゃんが廉を怖がることもなくなり、少しだが言葉も交わすようになっている。今回のお泊り会でも少し話していたし。
 順調に、第一歩だ。
 頑張れ、廉!




 「じゃ、琉の恋バナ聞かせてくれる?」
 「いいよ!」
 琉が、不満そうだったので、彼女が気を利かせてくれたようだ。
 「美泡さん、黒龍と白龍って知ってる?」
 「えっ?」
 お、彼女が驚いたな、珍しい…
 「黒龍と白龍って俺らの世界じゃすっごい有名な人なんですけど、ちょー強い人で、なんか100人相手に2人で勝ったとか、2人で暴走族を壊滅させたとか!ま、これは噂なんすけどね。」
 「そう…」
 「それで!俺が中2のときに!そんとき、要は中3だったんすけど、2人で歩いてたら、ヤンキーに絡まれちゃって。俺たちあんときは今みたいに暴走族とか入ってなかったし、弱かったんで、もう、どーしよー、てなっちゃってて!」
 「へぇ。」
 あー、これはあれだな、要が中学で弱かったって聞いて、いいおもちゃ見つけた、とか思ってる顔だろうな。
 琉の話を聞きながら、ニヤっと表情を変えた彼女を見て、そう思った。 
 なんか、彼女の考えてることがだんだんわかるようになってきたな。。
 「そしたら!なんとそこで黒龍と白龍が助けてくれたんす!一瞬で、ヤンキーたちをのしちゃって!
  そんときから俺は、黒龍と白龍に心を奪われしまったんっす!」
 琉は力いっぱいにそう言った。
 この話はしょっちゅう聞く。
 琉はほんとに黒龍と白龍に夢中で、龍星に入ったのもその2人にもう一度会うためらしい。
 熱心なことだ。
 たぶん、要も同じだろう。
 口に出したことはないが、要も結構純粋なところがあるからな。
 と、俺は勝手に思っている。
 「黒龍と白龍って、みんな最強の男だと思ってたんだけど、実は、女の人だったんですよ!俺も、助けてもらったそのときに知ったんです。
  でも、最近は全然、噂聞かないんすよね。。前までは結構頻繁に目撃情報とか出てたんすけど。
  ちょうど、美泡さんくらいの髪で…」
 
 女の人で、2人組で、髪が長い…?
 …いや、まさかな。。
 













 
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