結婚前提で頼む~一途な御曹司の強引な求愛~
「ここ、高くないですか?」
「俺が出すから気にしなくていい」

短く言って、先輩は付け足す。

「本店の方は何度も行っているが、味は保証できる」

あ、そうでした。お坊ちゃんだったんでした。きっと、こういう高級店に普通に行けるおうちなんだろうな。我が家なんかファミレスに行くだけで大はしゃぎだったけど。

「今日のプレゼン、なかなかよかった。上からで悪いが、ご褒美……みたいなものだと考えてほしい」

照れたように視線をそらして言う榛名先輩。かーわいい。
じゃなくて、職場を出るとあんまり仕事の話をしない人が私の仕事を褒めてる!?そうか、今までは仕事で褒めることが『頑張っている』ことだけだったから、敢えて話題にしなかったんだ。今更ながら彼の気遣いを知る。
そして、今日のプレゼンを褒めてもらえたことが嬉しい。うんうん、結構上手に喋れたし、質疑応答もよどみなかったと思うんだよねえ。

「傑さんに褒めてもらえると嬉しいなあ」
「そ、そうか?」

榛名先輩はちょっと突っかかりながら言う。
だって、職場では全然褒めてくれなかったのに、ふたりきりになったらこうなんだもの。

「もっと褒めてもらいたいから、頑張ります」
「里乃子は、充分頑張っている。俺は言い方がきついから、おまえを怯えさせてしまうんだろうな」

あ、自覚はあるのね。と思いつつ、私はいえいえと首を振る。

「私の出来が悪いのがすべてですよ~。でも、傑さんが教えてくれてるんですから!できるようにならないと!」

榛名先輩が私と繋いだ手にぎゅと力を入れる。とくんと鼓動が全身に響く。
男性と手を繋ぐっていうこと自体まだ慣れないんだけど、先輩の手からは私への気持ちが流れ込んでくるみたい。あったかくって優しい。
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