結婚前提で頼む~一途な御曹司の強引な求愛~
しかし、榛名先輩がそんな時間をくれるかと言ったら無理だろう。オフィスでは以前通り仕事の話しかしないし、外ではまったく会わない。もしかすると、榛名先輩の方で意識的に避けているのかもしれない。こうなると対話の機会は訪れない。

きっと、このまま榛名先輩から離れるのが一番いいのだ。私なんかが振り回していい人じゃかった。愛想を尽かされるどころか、傷つけ嫌われてしまったなんて、ひどい結末だ。もう、追いかけない方がいい。

それなのに、恋を知った私の心はわずかでも彼に近づきたくて必死になっている。視界に入りたくて、一瞬でもこちらを見てほしくて。

距離を縮めたくて、色々と実践してみた。たとえば昼休み、榛名先輩が仲のいい同期と雑談しているところに、他の後輩に混じって加わってみた。私のことを見てほしいというより、彼の柔らかな表情を近くで見たかった。もう、私には向けてくれないものだ。しかし、榛名先輩はそっとその輪を抜けてしまう。

仕事のことなら、と頑張って作った統計データを見てもらいにも行ってみた。急ぎではないけれど、あれば絶対役に立つものだ。先輩はさっとチェックしただけで、『佐藤班が使うだろう。渡しておけ』と私とは視線を合わせずに言う。褒めてほしくて余計にやったことだ。反応がないくらいで凹むなと思いつつ、悲しい気持ちになる。
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