結婚前提で頼む~一途な御曹司の強引な求愛~
榛名先輩と別れて、二週間が経った。榛名先輩はびっくりするくらい何も変わらない。きつく厳しく冷たい。でも、これは付き合っているときも変わらなかったもんな。別れたからって何も変化なくて当たり前か。

だけど、私は会社から帰るとき、いつもきょろきょろと辺りを探してしまう。先輩が追いかけてきてくれるんじゃないか。近くで待っていてくれるんじゃないか。
『里乃子、帰ろう』
そう言ってごくごく薄く微笑んでくれるんじゃないか。

当然そんなことはなく、私はひとり帰るだけ。スマホにメッセージがくることもなくなったのに、寝る前はどうしてもチェックしてしまう。

私たちは別れたのだ。私が彼を傷つけたから、関係が終わった。
わかっていながら、私はまだ榛名先輩を探している。私のことを大事に大事に愛してくれた先輩のことを。

あの日、スマホにメッセージを送ろうかと思った。あなたの好意を利用したかもしれないけれど、今はあなたが好き。本心を伝えなければと思った。
だけど、文章にしてみてなんと軽薄なのだろうと思ってしまった。
私のしたことは消えない。軽んじて利用した。それで合ってる。きっと、この文章を送っても何も響かないどころか、彼の傷をえぐるだけだ。
それなら、直接会って話したい。文字じゃなくて、自分の言葉と声で、事実を今の気持ちを伝えたい。
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