青春ヒロイズム
村田さんは小学生のときからずっと、岸本さんと仲の良いイメージがあるし。
同じクラスになったときだって、どちらかと言うと性格がキツくてはっきりしているタイプだった私は、ふわふわにこにこした村田さんとは所属するグループがそもそも違った。
クラスメートとしてちょっと会話をすることはあったけど、嫌なあだ名が気にならなくなるような会話をしたことなんてなかったと思う。
「だったら、記憶に残らないくらい、そのときの深谷にとっては自然な対応だったんじゃない?」
足元を見ながら考え込む私の隣で、星野くんの上履きの先がまた中庭の短い草を蹴る。
「小五のときだったと思うけど。智ちゃんが給食当番で、クラス全員分の牛乳をひとりで運ばないといけないときがあったんだって。俺らの小学校の給食の牛乳って瓶だし重かったじゃん?だからそれを見かけた男子たちに、『トンカ』が鼻息のパワーで持ち上げたとかって揶揄われたんだって」
「う、ん……」
「そのときに、当時は違うクラスだった深谷が通りかかって、クラス全員分の牛乳のカゴを軽々持ち上げて言ったらしいよ。『あんたたち、男子のくせにこんなものもひとりで持てないの?村田さんはひとりでもちゃんと当番の仕事しててカッコいい』って。そう言われてから、嫌なあだ名で呼ばれても気にならなくなったらしいよ」
「うん……」
星野くんに言われたら、そういえばそんなこともあったような気がしてきた。