青春ヒロイズム
「これ……」
「俺もちょうど飲み物欲しかったから。交換」
「え、でもそれ……」
潰れてるし汚れてる。
戸惑っているうちに、星野くんが私を置いて行ってしまう。
「あの、星野くんっ!」
咄嗟に呼び止めたら、星野くんが立ち止まってゆっくり振り向いた。
怪訝な表情の星野くんの反応が怖かったけど、今言わなければもう一生言えない。
そう思ったから、頑張って勇気を振り絞った。
「え、っと。ありがと……」
私の言葉にきょとんとした星野くんが、次の瞬間くしゃっと笑う。
その笑顔は今まで見たことがないくらい柔らかくて、まるで掌で握り潰されたみたいに、心臓がギュッとした。
「初めて深谷にお礼言われた」
そう言ってクスリと笑う星野くんの声が、心なしかいつもより優しい気がする。
「そんなことは……」
反論の言葉がうまく声にならない私を置いて、今度こそ星野くんが去って行く。
その背中をドキドキして見つめながら、私はしばらくそこから動けなかった。