本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「ルームナンバー3317のお客様が、篠宮さんに客室まで来て欲しいとの御要望なんだけど……幸田 裕翔(こうだ ひろと)様って知り合い?顧客名簿を開いても新規の方なんだよね…」

「こうだ ひろと様?知り合いではないですし、以前に働いていたホテルのお客様の顔見知りでもない気がするんですが…」

誰なんだろう?指名が入る程の顔見知りのお客様なら名前も覚えているのだが、全く分からない。このホテルに入ってから自分の名前を覚えて頂いた方は鈴木様、穂坂様、一条様の三人だけだと思う。

「穂坂様の件もあるから、男性が一人の客室にあんた一人で部屋に行かせる訳はいかない。俺も着いて行くよ」

「有難う御座います。正直、誰なのかも分からないから不安です…」

穂坂様の時の様にはなりたくないので、高見沢さんの好意に素直に甘える事にした。その後に二人で客室に向かう。

「失礼致します、篠宮で御座います」

「あぁ、待ってました!こんばんは。篠宮さん」

「あ、」

ドアの施錠をロック解除され、中に入ると……そこには会いたくなかった人物が立っていた。私は思わず声を上げてしまったので、慌てて自分の口を両手で塞いだ。

以前、配膳会で仕事に来た大学生だった。特に問題を起こした訳ではないが執拗に私を追いかけてくるのだ。一颯さんが追い払ってくれたのも束の間、懲りずに配膳会の仕事で来ていたらしい。私が宴会などを請け負うレストランには居ないと知り、バトラーになったという噂を聞きつけて、当ホテルに泊まりに来たのだと推測する。

何故、私に固執するのか?私が素っ気のない態度を取ってしまったからだろうか?
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